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『ナイルの西で』終演後記(後編)


 というわけで『ナイルの西で』の執筆に着手したのは去年の夏が始まる頃。


 テーマは「会いにいく」だった。昨今なかなか実現しないテーマであり、当時一番もどかしく思っていたテーマであった。リモートワークやオンライン飲み会がものすごい勢いで浸透し、オフィスに行かなくていいのなら田舎に引っ越そうとか、郊外に家を持とう、みたいなライフスタイルの変革まで、それが時代の最先端であるというように誇らしげに唱えられていた時期だ。


 そんなのは(少なくとも僕にとっては)無理のある話だと思っていた。半分はgoogleやfacebookを筆頭とする「人々がスマホとPCにかじりついていて欲しい企業」の策略じゃないかと今でも半分思っている。








 人は人に会いたがる生き物だ。家族さえいればいいわけでも、友達さえいればいいわけでもない。画面越しになった皆さんの仕事も学校も、根底は人と関わることがその全てであって、人類史上脈々と続くその営みが、たかだかウイルスの流行で、たった1年で、覆るわけがない。リモートはあくまで便利な手段のひとつに過ぎない。もちろん楽だけど、1カ月も2カ月も続くのは耐えられないと、多くの人が実感したのではなかろうか。出張も出勤も登校も旅行もなにもかも、複数の身体が同じ空間を共有する価値は何にも代えがたい。



 そんなリモート礼賛に反抗したい気持ちが出発点になった。それは同時にびっくりするほどアナログな演劇への思い入れにも重なったし、死期の迫った爺ちゃんに面会できないというタイムリーでリアルな感情も閉じ込めることができた。







 実際に公演を終えて思うには、やはりコロナ禍での上演のリスクの高さとマネジメントの難しさが目立つ。稽古できること自体が幸せだった。


 今回は稽古序盤でキャストに感染者が出るところから始まり、保健所や病院とのやりとり、稽古場に予定していた施設の閉鎖、補助金等の申請、そして稽古中の二重マスクと飲み会厳禁…と、2019年なら考えられない仕事のオンパレードで、単純にHPを持っていかれた。比較的苦手ではなかったからよかったものの、演出や出演に絶対集中したいとなったら、「コロナ対策」というクレジットでスタッフを配置する必要がある気がする。


 また、ウチは今回直前のPCR検査を全キャストとベタ付きのスタッフに受けてもらって、もちろん全員陽性じゃなければ上演しない、というのを最初に決めていた。お客様のためもあるが、どちらかと言えば座組のためかもしれない。特にキャストは、マスクを外して長時間至近距離でお芝居をしなくちゃいけないわけで「感染者かもしれん…」という不安を抱えたまま本番を迎えるのはどうしても避けたかった。


 ということで必死こいて稽古しても、最終的に上演できないという可能性を常に含んでいたわけで、これもまたボディブローのようなストレスになる。結果、上演できたからよかったものの、直前で中止になった場合の代替として完全オンライン演劇の台本まで書いておいた。あれはあれでおもしろいと思うので、いつかやってみたいけど。


 宣伝においてもそれは同様の足かせとなって現れる。高くはないとはいえ、家に引きこもっていることよりは間違いなく感染のリスクが高まるわけなので、「来てください」という言い方にもいつも以上の遠慮が入り込む。本来75分という上演時間はご高齢の方にも楽しんでいただきやすい尺ではあるが、今回はなかなか声をかけにくい側面もあった。






 ただ、これは言い訳でもある。


 自分で公演を切り盛りしていく中で、それぞれに甘さがあったことへの、言い訳。もちろん、手を抜いて作ったというのとは違う。全身全霊フルパワーのベストを持っていった結果が出たのだし、それ以上でも以下でもないところが良いも悪いもない演劇の醍醐味なんだけど、上を見ればもっとできた。特に演出面。稽古場での雑務に脳のメモリを奪われていた部分や、(特に本番が近づくにつれ)自分の出演シーンに気がいっていた部分があり、経験もさして無いくせに演出が浅めになってしまった感は否めない。SNSやブログの更新にも最後スタミナ切れが見えていたしね笑。


 今後公演のカタチは少しずつ考えていく必要があるし、それこそ劇場設立を見据え、劇場装飾や宣伝広報の部分でも試してみたいことがたくさんあるから、演出一本に集中!という機会はなかなか訪れないかもしれないが、それでも、もし浅くなっていることに自覚があるなら「いろいろやってるから仕方ない」では絶対にいけない。今後もこれを続けるならば、それだけは言っちゃいけないし、ほどほどでいいと思った瞬間、もう降りたほうがいい。



 脚本も演出も出演もプロデュースも美術も広報も、全部もっとやってみたい。ビジネスの仕組みや世の中の動きももっと知りたい。触りたいところに全て手垢をつけて死にたい。そういう生き方も、まあ、できないわけじゃないことは、投げて打って走って守る、世代のトップランナー大谷翔平が夢のようなレベルで背中を見せてくれている。春からまた新しい挑戦を始めたところなので、そちらも全力で楽しみつつ、無理だと思うところまでやってみようと思う。



※いつになく勢いで書いているこんな長い文章を最後まで読んでくれるあなたはよほどのファンです。是非次回公演も楽しみにしていてください。




タイオン/粂川鴻太


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